スヌーピーミュージアム特別展、ピーナッツ・ギャングの恋模様―徹底ガイド&インタビュー
シュルツさんが探っていた様々な愛のあり方、想いのあり方を知ってほしい―
シュルツさんが遺してくれたかけがえのない遺産を守り伝え、育てていく。
アメリカ合衆国からカートゥニスト/Charles M. Schulz Creative Associates(チャールズ M. シュルツ・クリエイティブ・アソシエイツ) シニアエディター/アプルーヴァルス/パブリッシングのAlexis “Lex” Fajardo(アレクシス“レックス”ファハルド)さんが来日したため、“PEANUTS GANG”(ピーナッツ・ギャング)の恋についてやスヌーピーミュージアム特別展『Love is Wonderful―恋ってすばらしい。』の見どころをお聞きした。
——初めまして、今日はよろしくお願いします!―
お会いできてとても嬉しいです!
——いつもInstagram(インスタグラム)も見させていただいているんですが、Lex(レックス)さんのカートゥーンのタッチは好きです。
Oh! 気に入っていただけて嬉しいです!アメリカ合衆国で、あるイラストレーターが始めたInkTober™(インクトーバー™)というチャレンジ企画があるんですが、毎年10月の31日間毎日、指定されたインクやペンで描いた絵をオンライン上に投稿しなければいけないんです。毎日描かなければいけないんですが、まだ4日間しか投稿していないのでちょっとまずいんですよ。
※InkTober™(インクトーバー™)は、イラストレーターのJake Paker(ジェイク・パーカー)が2009年から始めたチャレンジ企画。毎年、世界中のイラストレーターやカートゥニストなどがオンライン上で参加している。
——今回の展覧会のタイトルでもある特別展『Love is Wonderful―恋ってすばらしい。』に込めた思いは何でしょうか?
今回の展覧会を構成して作った担当者とは別の私なりの解釈にはなりますが、圧倒的な物語を作っていったCharles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんの世界を知る、とても良いひとつのきっかけになるのではないかと思います。今回の場合は“恋”という言葉を使っていますが、“恋”だけではなく、“愛”もありますし、様々な愛のあり方、想いのあり方というのをCharles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんは探っていましたので、それを皆さんに知っていただきたいということだと思います。もう一つは、Charles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんの世界によくある“誰かが誰かのことを好き。でもその想いが上手く伝わらない”ということも良い形で知っていただきたいということだと思います。
——今回は恋がテーマというと、Charles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんの奥様のJean Schulz(ジーン・シュルツ)さんの想いが詰まったオープン記念展『MY FAVORITE PEANUTS』(愛しのピーナッツ。)に少し原点回帰している展覧会にもなっているのでしょうか?
その通りだと思います。そういった面もあるかもしれませんが、いままでの全ての展覧会は、『PEANUTS』(『ピーナッツ』)の世界、Snoopy(スヌーピー)の世界がどういったものなのかという枠組みを理解、確認していく作業にも繋がっていったかと思います。今回の展覧会では、皆さんに理解していただいた『PEANUTS』(『ピーナッツ』)の世界、Snoopy(スヌーピー)の世界にさらに飛び込んでもらい、深く知っていただくことができるようになってきたというところの分岐点なのかなとも思います。
——『PEANUTS』(『ピーナッツ』)は、Charlie Brown(チャーリー・ブラウン)をはじめとする子どもたちとSnoopy(スヌーピー)の物語ですが、子どもながらに恋って少し背伸びをしている感じがしてすごく可愛いですよね。『PEANUTS』(『ピーナッツ』)の恋は、必ずと言っていいほど片想いですが、それはなぜでしょうか?
(笑)、正直に言うとその方がコメディのネタになりやすいということ、笑いを取れるということはあったと思います。失敗するというのは娯楽性も出てきて話としてもとっつきやすくなります。もう一つは、Charles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんは初恋が忘れられなかったのかなと思いますし、それについては何度もキャラクターやストーリーで表現し、語らせています。悲しいんですよね、結局みんな片想いで終わってしまって。悲しい思いをするんですけど、でも“Never give up!”で絶対に諦めないというところが、とても可愛いんです。
——Snoopy(スヌーピー)は結婚式当日に兄のSpike(スパイク)に花嫁を奪われてしまうという、かなりディープな“恋”のエピソードがりますが、Charles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんはどんな思いで描いたと思いますか?
とても面白いですよね!なんて酷いことをするんだというのが思いとしてはあるんですが、作り手として思うのは、舌を巻いて、息を呑むくらい、とにかく見事な構成力だということなんですよ。新聞の連載は毎日掲載されているので、それを全部読み通していきますと、ものすごく上手くドラマが構成されていてサスペンスを高めていくんです。Snoopy(スヌーピー)は結婚式をするぞ、結婚の準備に入るぞということになって、さぁ結婚式だと思ったら、兄のSpike(スパイク)に花嫁を取られて、Spike(スパイク)は花嫁と駆け落ちしてしまったとなると、読者の皆さんからすると全く想定外の出来事になります。そして、さらに追い討ちをかけるように結婚式の日に届いた手紙で兄のSpike(スパイク)も花嫁に逃げられたという事実が発覚し、見事としか言いようがないくらい上手いなと思います。ちなみに駆け落ちはされたけど兄弟愛の方が大事だということでSnoopy(スヌーピー)とSpike(スパイク)2人の仲に亀裂は入っていません(笑)。
——今回の特別展『Love is Wonderful―恋ってすばらしい。』でLex(レックス)さんが特に注目してほしいという点を教えてください。
私が面白いと思うのは、Charles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんが他のカートゥニストについてコメントを明らかにしているところはカートゥーンやコミックが好きな身としてはものすごく面白いですし、偉大なカートゥニストでアニメーター/イラストレーターのWalt Kelly(ウォルト・ケリー)がCharles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんや『PEANUTS』(『ピーナッツ』)に敬意を表す手段として自身の作品の中でも取り上げていますが、Charles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんがWalt Kelly(ウォルト・ケリー)の作品についてもコメントし、同じ時代に同業者同士がこういう見方をしていたのかと感じることができるのはすごく特別なものだと思います。後、Charles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんは、カートゥーンやコミックの全てを徹底的に見て読んで、カートゥーンの制作を始め、カートゥニストとしてデビューした後、仕事が順調に入ってくるようになってからも同じ時代のカートゥニストや新しいアーティストの作品を全てチェックするようにしていました。実は、Charles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんはかなりの負けず嫌いなところもあって、そのバックグラウンドを知った上で展示を観ていくと、とても面白味が増しますよ。
——『PEANUTS』(『ピーナッツ』)の中でLex(レックス)さんが好きなキャラクターと好きなストーリーを教えてください。
一番好きなキャラクターというと難しいのですが、Peppermint Patty(ペパーミント パティ)かなと思っています。とにかくCharlie Brown(チャーリー・ブラウン)との掛け合いが好きで仕方ありません。後は、皆さんがあまりご存知ないキャラクターとストーリーになるかもしれませんが、Linus(ライナス)とLydia(リディア)という同級生の恋の物語です。Linus(ライナス)はLydia(リディア)に夢中なのですが、Lydia(リディア)は自分のことをLinus(ライナス)が好きだということを知った上で名前を変えたり、Linus(ライナス)を年寄り扱いするので、Linus(ライナス)は毎日壁にぶち当たっています。そういうLinus(ライナス)が可愛いですし、Lydia(リディア)にいたってはManic Pixie Dream Girl(マニック・ピクシー・ドリーム・ガール)=男の子を誑かして夢中にさせておいてどこかに消えていくような不思議な女の子のような要素も無きにしも非ずかなと思うんです。
——Charles M. Schulz Creative Associates(チャールズ M. シュルツ・クリエイティブ・アソシエイツ)で10年お仕事をされているということですが、カートゥーンを描く上で、そして、出版物の制作や認可を行う上で、一番心掛けていることは何でしょうか?
質問の趣旨からはちょっとずれるかもしれませんが、Charles M. Schulz Creative Associates(チャールズ M. シュルツ・クリエイティブ・アソシエイツ)で仕事ができて本当に良かったと喜びや幸せを噛み締めるときがあります。まず、スタジオと美術館があります。Charles M. Schulz Museum(チャールズ M. シュルツ美術館)はご存知の通り、原画などの保存や展示をしています。原画を見たいときには前もって申し込んで美術館に行くと、白手袋を着けた係員が原画を持ってきて、厳かな雰囲気の中で遠くから眺めることになります。しかし、Charles M. Schulz Creative Associates(チャールズ M. シュルツ・クリエイティブ・アソシエイツ)で仕事をしていて良かったと思うのは、時々、Jean Schulz(ジーン・シュルツ)夫人が自宅に眠っていた、まだCharles M. Schulz Museum(チャールズ M. シュルツ美術館)に持って行ってない原画をフラッと持ってきてくれるんです。その原画を間近でじっくりと堪能することができるときに、この仕事をしていて良かったと思うんです。すごいんですよ、下書きの鉛筆のラインを好きなだけ見ることができるんですよ!そして、今度は、私たちの仕事の中で、その喜びや幸せをどのように転換して皆さんに伝えていくかというと、皆さんが本を手にするときに同じような感覚を味わっていただけるように目指して、心掛けています。「これはすごい」「これはかけがえのない体験ができた」ということをすべての読者の皆さんに感じていただけるように、届けたいんです。
——素晴らしい!とても素敵なお仕事ですね!
日本で体験できるものといえば、実は、昨日、ジブリ美術館を訪問することができたんですが、一瞬“ここで制作していたんだ”と思わせるくらいの雰囲気を再現している一角があったんです。そういう特別さ、それは必ず実現できることだと思っています。
——Lex(レックス)さんがこれからやりたいことや夢はありますか?
スヌーピーミュージアムに来ることができてとても嬉しく思っていますし、いままでみんなが着実にやってきたことが成果に結びついていることと、その大切さを噛み締めています。当面やっていきたいこととしましては、これからもCharles M. Schulz Creative Associates(チャールズ M. シュルツ・クリエイティブ・アソシエイツ)の一員として、カートゥニストとして、着実にきちんと自分のやりたいことをやり続けていき、仕事の上でも成果を挙げ続けることだと思っていますし、Charles M. Schulz(チャールズ M. シュルツ)さんが遺してくれたかけがえのない遺産を守り伝えていく、さらには皆さんと一緒に育てていくことができればと思っています。そして、自分が個人的に直接やっている出版活動も続けていきたいと思います。
——日本国の『PEANUTS』(『ピーナッツ』)ファン、Snoopy(スヌーピー)ファンの皆さんにメッセージをお願いします。
一番の問題は、ご記憶にない方もいらっしゃるかもしれませんので、もう一度お伝えしておきたいのは、このスヌーピーミュージアムは期間限定のミュージアムです。今回の展覧会が、最後から2本目の展覧会で、次回が最後の展覧会です。そのことを踏まえた上で、まだミュージアムに来ていない方は、是非とも急いで来てください。絶対に面白いです。そして、先ほど、私がジブリ美術館を訪問したことをお話しましたが、これはかねてからの私の夢だったことです。私の夢だって叶うわけですから、皆さんも夢を叶えるべきです。さらに本格的に夢を叶えたい方は、サンタローザにお越しください。お約束します、私がご案内します!
——Lex(レックス)さん、素敵なお話をありがとうございました!
Thank you!!
Alexis “Lex” Fajardo (アレクシス“レックス”ファハルド)
カートゥニスト、Charles M. Schulz Creative Associates(チャールズ M. シュルツ・クリエイティブ・アソシエイツ)のシニアエディター/アプルーヴァルス/パブリッシング。主に国内外の出版物の制作・認可を担当。Charles M. Schulz Creative Associates(チャールズ M. シュルツ・クリエイティブ・アソシエイツ)での仕事は10年を迎える。スヌーピーミュージアム第2回展『Hello again, Snoopy』(もういちど、はじめましてスヌーピー。)から図録や会場内のテキストの執筆を担当。カートゥニストとしては、Andrews McMeel Publishing(アンドリューズ・マックミール・パブリッシング)からグラフィック・ノーヴェル・シリーズ『Kid Beowulf』(キッド・べオウルフ)を出版している。
※スヌーピーは、通常はスヌーピーミュージアムには不在です。